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配偶者短期居住権(相続法改正)

最終更新日 2019年 02月11日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に「無償で」居住していた配偶者が、当該建物に一定期間無償で使用できる権利です。

次の2種類があります。

①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
②①以外の場合
被相続人の配偶者は、被相続人が死亡するまでの間、被相続人と同居していることが多いと思います。

そして、自宅が相続財産である場合には、遺贈や遺産分割により、配偶者以外の者の所有に帰すことがあり、その場合には、配偶者は、自宅を出て、新しい住居に移転しなければならなくなることがあります。

しかし、生存配偶者がただちに転居先を探して転居するのも大変です。

そこで、改正前相続法の時は、判例法理により、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て相続財産である建物において被相続人と同居していたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の同居相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立したものと推認し、生存配偶者の居住権を確保しようとしていました(最高裁平成8年12月17日判決、民集50巻10号2778頁)。

しかし、この判例法理も、被相続人が反対の意思を表示しているときは適用できず、生存配偶者の保護に欠ける状態でした。

そこで、改正相続法は、このような事態にも対処できるよう規律を整えたものです。

配偶者短期居住権の成立要件と内容

(ア)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合(民法第1037条1項1号)

この場合の配偶者短期居住権の成立要件は、以下のとおりです。

①配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたこと
②居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合であること
配偶者短期居住権が成立すると、配偶者は、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6ヵ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住建物の所有権を相続により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利を取得します。

ただし、配偶者が相続によって「配偶者居住権」を取得したとき、または欠格事由に該当しもしくは廃除によって相続権を失ったときは、配偶者短期居住権は発生しません。

(イ)(ア)以外の場合(同条1項2号)

この場合の配偶者短期居住権の成立要件は、以下のとおりです。

①配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたこと
②配偶者以外の者が居住建物の所有権を相続し、又は遺贈により取得したこと
配偶者短期居住権が成立すると、配偶者は、居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者が配偶者短期居住権の消滅の申し入れをした日から6ヵ月を経過する日までの間、居住建物について無償で使用する権利を取得します。

ただし、配偶者が相続によって「配偶者居住権」を取得したとき、または欠格事由に該当しもしくは廃除によって相続権を失ったときは、配偶者短期居住権は発生しません。

配偶者短期居住権の効力

(ア)使用方法等

配偶者は、居住建物を使用するに際しては、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用しなければいけません(民法第1038条1項)。

また、配偶者短期居住権は、あくまで配偶者の居住権を確保しようとする制度ですので、配偶者短期居住権を譲渡することはできません(民法第1041条、1032条2項)。

そして、居住建物の所有権を取得した者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることはできません(民法第1038条2項)。

(イ)修繕等

居住建物が修繕を要するとき、または居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、(一)(ア)の場合には他の共同相続人に対し、(一)(イ)の場合には居住建物の所有権を取得した者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければいけません。

ただし、他の相続人または居住建物の所有権を取得した者がすでにこれを知っているときは、通知は不要です。

また、配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕を自ら行うことができますが、自ら修繕を行う場合も、通知は不要となります。

居住建物の修繕が必要である場合に、配偶者が相当期間内に必要な修繕をしないときは、他の共同相続人または居住建物の所有権を取得した者が修繕をすることができます。

(ウ)費用負担

配偶者は、居住建物の通常の必要費(建物を保存・管理するための費用)を負担します。

ただし、配偶者が居住建物について、通常の必要費以外の費用を支出したときは、(一)(ア)の場合には各共同相続人、(一)(イ)の場合には居住建物の所有権を取得した者は、その相続分または持分に応じて必要費の償還をしなければなりません。

この費用が有益費(建物の価値を増加させる費用)である場合には、他の相続人または所有者が請求することにより、裁判所が費用の償還について相当の期限を与えることができます。

配偶者短期居住権の消滅

(ア)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

配偶者短期居住権は、次に該当する事実があったときは、自動的に消滅します。

①配偶者が死亡したとき
②配偶者が配偶者居住権を取得したとき
また、次に該当する事実があったときは、他の相続人は、配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができます。

①配偶者が、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用しなかったとき
②配偶者が、他の全て相続人の承諾を得ずに、居住建物を第三者に使用させたとき
以上により、配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者は、居住建物を返還しなければなりません。

ただし、配偶者が居住建物の共有持分を有するときは、消滅によって当然には返還の必要はありません(民法第1040条)。

配偶者が居住建物を返還する際には、相続開始後に配偶者が居住建物に付属させた物を撤去するとともに、配偶者の帰責事由により、居住建物に生じた損傷(通常損耗や経年劣化を除きます)を原状回復する義務を負います。

ただし、居住建物に付属させた物が建物から分離できない場合および分離するのに過分の費用を要するときは、撤去の必要がありません(同条2項)。

配偶者が使用方法に違反して生じた損害の賠償請求及び配偶者が支出した費用の償還は、いずれも居住建物の返還から1年以内に請求しなければなりません。

そして、配偶者が使用方法に違反して生じた損害の賠償請求権の時効は、居住建物の返還から1年を経過するまでの間は、消滅時効が完成しないこととされています。

(イ)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合意外の場合

居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者は、配偶者に対し、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができます。

この場合、申し入れをした日から6ヵ月を経過すると、配偶者短期居住権が消滅します。

また、配偶者が死亡したとき、および配偶者が配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅します。

配偶者短期居住権が消滅した後の処理は、(ア)と同じです。

配偶者短期居住権については、2020年4月1日より適用されます。

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