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「相続させる」旨の遺言とは?

最終更新日 2019年 06月28日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

遺言により、特定の財産を相続人に取得させ、あるいは財産の全部または一部の割合を取得させようとするとき、遺言書に「相続させる」と記載させることが多くあります。

これは、「相続させる」旨の遺言は、これまでの判例により一定の効果が認められているためです。

2019年7月1以降以降に作成される遺言について、遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言を、「特定財産承継遺言」と呼ぶことになりました。

次のような効果が認められています。

遺産分割が不要になる

遺言書において、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書があった事例において、最高裁平成3年4月19日(民法百選Ⅲ86)は、「遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない」とし、「相続させる」趣旨の遺言は、「正に同条(民法第908条)にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり」、「何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力が生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」としました。

したがって、「相続させる」旨の遺言があったときは、遺産分割は不要となり、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に承継されることになります。

なお、「相続させる」旨の遺言が効力を発生する前(遺言者の死亡以前)に受益推定相続人が死亡した場合には、「当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない」として、代襲相続できないとされています(最高裁平成23年2月22日判決、民集65巻2号699頁)。

このような結果を回避し、受益推定相続人が死亡した場合には、代襲相続人に相続させたいという希望を持っているのであれば、「受益相続人Aが私よりも先に死亡した場合、Aの相続人であるBに相続させる」というような遺言内容にするよう助言することを検討してもよいでしょう。

単独で登記が可能

不動産を遺贈した場合、受贈者が所有権移転登記を受けるには、他の共同相続人と共同で申請しなければいけません(不動産登記法第60条、昭和33年4月28日民事甲779号民事局長通達)。

しかし、「相続させる」旨の遺言の場合には、相続した相続人が単独で申請することができるとされています(不動産登記法第63条2項、昭和47年4月17日民事甲1422号民事局長通達)。

したがって、所有権移転登記手続に遺産分割協議書の添付は不要であり、遺言書を添付して申請することになります。

したがって、この場合、遺言執行者がいたとしても、遺言執行としての登記手続については、遺言執行者の職務は顕在化しません(最高裁平成7年1月24日、判例時報1523号81頁)。

なお、2019年7月1日以降にされた特定財産承継遺言については、

① 遺言執行者があるときは、遺言執行者は、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。

② ①の財産が預貯金債権であるときは、遺言執行者は、預貯金の払い戻しの請求をする権限も有します。

③ ①の財産が預貯金債権であり、かつ、特定財産承継遺言の目的財産が預貯金債権の全部であるときは、遺言執行者は、預金または貯金の契約の解約の申し入れをする権限も有します。

④遺言者が遺言において①~③と異なる意思表示をしているときは、その意思表示に従うことになります。

賃借権の譲渡に賃貸人の承諾が不要

遺言者が賃貸借契約における賃借人である場合、賃借権を遺贈により承継させた場合には、賃借権の譲渡になるので、賃貸人の承諾が必要です(借地借家法第19条、民法第612条1項)。

しかし、「相続させる」旨の遺言の場合には、賃貸人の承諾は不要です。

対抗要件が不要

「相続させる」旨の遺言の場合には、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されます。

そして、不動産を相続した受益相続人は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができます(最高裁平成14年6月10日、民法百選Ⅲ74)。

この点、遺贈の場合には、受贈者が登記をしなければその権利を第三者に対抗できないのと異なります。

また、遺産分割により不動産を取得した相続人も、登記をしなければその権利を第三者に対抗できません。

2019年7月1日以降に開始する相続については、「相続させる」旨の遺言についても、不動産を相続した受益相続人は、自己の法定相続分を超える部分については、登記をしなければ、その権利を第三者に対抗することができないこととされました。

動産および債権についても対抗要件が必要とされました。

遺産に債務が含まれている場合の「相続させる遺言」の効力

可分債務は当然に分割承継する

債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて債務を承継します(最高裁昭和34年6月19日判決、民法百選Ⅲ62)。

その結果、相続人間の関係と債権者との関係で考慮を要します。

相続人間の関係

1人に対して「全部を相続させる」旨の遺言がある場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人の間では、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務を全て承継することになります(最高裁平成21年3月21日判決、民法百選Ⅲ87)。

したがって、相続債務を承継しない共同相続人の負担割合は、ゼロということになります。

債権者との関係

遺言による相続分の指定は、債権者の関与なくされるものですから、遺言による相続分の指定は、債権者に対抗できません。

したがって、債権者は、各相続人に対し、法定相続分に従った相続債務の履行を請求することができます。

ただし、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは可能です(最高裁平成21年3月21日判決、民法百選Ⅲ87)。

2019年7月1日以降に開始された相続では、相続分の指定がなされた場合であっても、相続債権は、各共同相続人に対して、その法定相続分の割合でその権利を行使することができますが、相続債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分の割合による義務の承継を承認したときは、各共同相続人に対して、その法定相続分の割合でその権利を行使することはできず、その指定相続分の割合でその権利を行使することができることとされました。

特定遺贈との違い

相続財産に債務が含まれている場合、特定の財産を「相続させる」旨の遺言と特定遺贈の場合で違いが生じてきます。

特定遺贈の場合には、受贈者は特定の財産を取得するのみです。

したがって、特定遺贈の受贈者が相続人である場合に、相続放棄をすると、相続による相続債務の承継を免れることができたうえで、特定遺贈による遺産を取得することができることになります。

しかし、「相続させる」旨の遺言の場合には、相続放棄をすると、相続債務を免れると同時に、相続による財産を得ることもできなくなります。

相続税における取扱い

相続があった場合、相続人は、被相続人が負担する納税義務を承継します(国税通則法第5条1項)。

複数の相続人がある場合には、承継する納税額は、納税義務の合計額を民法第900条から第902条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分により按分して計算した額です(同条2項)。

したがって、当然に法定相続分の割合で承継するのではなく、指定相続分により承継するものとされます。

※なお、2018年相続法改正により、「相続させる」旨の遺言は、「特定財産承継遺言」という名称になりました。

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