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預貯金の仮払い仮処分・払戻制度(相続法改正)

最終更新日 2019年 02月11日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

預貯金の仮払い仮処分の要件緩和

債権は、相続財産を構成し、相続人に承継されます。

債権のうち、可分債権については、「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。」(最高裁昭和29年4月8日判決、民法百選Ⅲ65)とされています。

そして、共同相続された預貯金債権について、以前は可分債権として、法定相続分に従って当然に相続されることとされていましたが、最高裁平成28年12月19日決定が、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。」と判示したことにより、遺産分割の対象となることが明らかにされました。

そうすると、遺産分割がなされるまでの間、被相続人の医療費などの債務を被相続人の預金から引き出して支払うには、共同相続人全員の合意が必要となり、不都合が生じる結果となってしまいます。

相続法改正前でも、家庭裁判所は、遺産分割の審判前であっても、預貯金債権の払戻を認めることができました。

それは、改正前家事事件手続法第200条です。

この制度は、家庭裁判所は、
①遺産の分割の審判または調停の申立があった場合において、
②強制執行を保全し、または事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、
③当該申立をした者または相手方の申立により、
④遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる、
というものです。

ただ、この②の要件が厳しいため、あまり活用されなかったものです。

そこで、改正家事事件手続法では、この要件を緩和して、次のような預貯金債権の仮払い仮処分の要件の緩和をしました(改正家事事件手続法第200条)。

家庭裁判所は、
①遺産の分割の審判または調停の申立があった場合において、
②相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立をした者または相手方が行使する必要があると認めるときは、
③その者(相続人)の申立により、
④遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部を仮に取得させることができる、
というものです。

ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この処分はできません。

この仮処分がなされた場合、その後の遺産分割については、あらためて仮処分により取得された預貯金債権を含めて遺産分割の調停または審判がされることになります。

預貯金払戻制度の創設

預貯金の仮払い仮処分要件の緩和により、家庭裁判所への申立によって、預貯金の仮払いを受けやすくなりました。

しかし、同制度は、遺産分割の審判または調停を家庭裁判所に申立をしたうえで申立をしなければいけません。

しかし、共同相続人間で、特に紛争がなく、家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てるまでもない事案であっても、預貯金の払い戻しが必要となる場合があります。

そこで、改正相続法では、家庭裁判所の判断を経ずに、預貯金の一部の払戻を受けることができる制度を創設しました(民法第909条の2)。

この制度は、遺産に属する預貯金債権のうち、
①相続開始の時の預貯金債権額の3分の1に
②当該払戻を受ける共同相続人の法定相続分を乗じた額(上限額は法務省令で定められます)を
③単独で払戻を受けることができる
というものです。

払戻を受けた金額については、当該共同相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。

この制度を活用することにより、一部ではありますが、遺産分割を経ず、また家庭裁判所の判断を経ずに、相続開始後の資金需要に応えることができるようになりました。

この制度は、2019年7月1日より前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも適用されることとされています(附則第5条1項)。

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